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201708.24

「日本は預金好き、アメリカは株式好き」は本当?日米の資産運用事情を比較

日本と海外の資産運用を比較する際、よく「日本は農耕民族的にコツコツ貯蓄をする」「欧米は狩猟民族的にリスク資産の運用を好む」などと言われることがありますよね。とはいえ、実際のところはどうなのでしょうか。また、もしこのイメージが本当だとしたら、それはどうしてなのでしょうか。今回はデータをもとに、日米の資産運用事情を比較してみましょう。

預金の多い日本~戦後の政策が影響?

日本銀行調査統計局がまとめた「家計の金融資産構成」で、日本の家庭における金融資産合計に占める割合を見てみると、現金・預金はなんと51.5%。家庭における金融資産の半分が預金や現金ということになります。一方、リスク資産を見てみると、「株式等」「投資信託」「債務証券」を合わせても16.8%にしかなりません。どうやらイメージは本当のようです。

その理由は、戦後の政策にあると考えられます。太平洋戦争後、日本政府には復興のためのお金がありませんでした。そこで、個人が持っているお金を、当時国営だった郵便貯金に預けさせ、活用する方法が考えられたのです。貯蓄広報中央委員会という機関が、貯蓄を奨励するさまざまな広報活動を行いました。このとき、貯蓄を美徳とする日本人のマインドが形作られたのではないかと考えられます。

広報活動だけでなく、金利面でも預金は有利でした。経済成長をしている時代においては、預貯金金利は3%や5%という高い数字だったと言います。ほとんど金利のない今の状況を考えると信じられない数字ですよね。

一方、株式投資については、制度面で多くのデメリットがありました。たとえば、株式投資の委託売買手数料は、当時、取引額の1%もかかっていたそうです。これが法律で定められていました。さらに、売却の際には、手数料に加えて有価証券取引税もかかったとのこと。国は制度的にも、株式投資から預貯金へ資産運用を誘導していたのではないかと考えられますよね。

郵便貯金に集められたお金は、財政投融資として、成長部門に集中的に使われ、日本の急速な経済成長を成し遂げました。もし、株式投資のように、個人の少ないお金がバラバラに投資されてしまっていたら、日本はここまで早く復興し、発展することはなかったかもしれません。

預金は引き出しなどの自由度が高く、元本割れリスクもない資産運用方法ですが、インフレに弱いというデメリットもあります。仮に金融資産の半分がインフレの影響を受けてしまったときのことを考えると、リスクは分散したほうが安全なのかもしれません。また、日本の発展を支えてきた預金ですが、現代においては、戦後のような一点集中型の投資では、発展は難しいでしょう。日本経済のためにも、新たな資産運用の文化を形作っていかなければならないかもしれませんね。

金融資産の3分の1を株式投資しているアメリカ~カギは金融教育!

同じく日本銀行調査統計局の「家計の金融資産構成」で、アメリカの家庭における金融資産合計に占める割合を見てみると、現金・預金は13.4%しかありません。他方、株式等は35.8%、投資信託11.0%、債務証券5.6%の割合を占めています。いわゆるリスク資産だけで52.4%という計算です。確かに、アメリカではリスク資産の運用がさかんであると言えそうですよね。

とはいえ、単に「ハイリスク・ハイリターン」の投資を、むやみに好んでいるというわけではないようです。アメリカでは、預貯金だけでなく、さまざまな資産運用方法を考えたうえで、リスク分散をしていると考えられます。

その理由としては、金融教育が活発である点が挙げられるでしょう。アメリカの経済教育協議会は、各州に対して隔年で、K-12(幼稚園に入園してから高校を卒業するまでの13年間のこと)の期間における個人金融教育の状況を調査しています。その2014年の結果を見てみると、43の州が個人金融教育に関する教育基準を持ち、それに応じた教育を行っているとのことです。つまり、半分以上の州において、日本でいう学習指導要領のようなものに、金融教育が組み込まれているということになります。子どものころから資産運用の基本に触れていれば、リテラシーが身につきそうですよね。

また、国の政策としても、金融教育は推進されています。2003年には、「信用取引の公正・適正化に関する法律(Fair and Accurate Credit Transactions Act of 2003)」に、「金融リテラシー及び金融教育改善法(Financial Literacy and Education Commission)」が盛り込まれました。同法に基づいて、20の機関から成る「金融リテラシー教育委員会(Financial Literacy and Education Commission)」が設置されています。同委員会では、学生や新社会人などの若年層に対する金融教育の強化を掲げており、2013年には“Starting Early for Financial Success”キャンペーンが実施されました。

国を挙げての金融教育ですが、教材も充実しているようです。たとえば、パソコンやタブレットでスポーツゲームを楽しみながら資産運用を学べる教材が出てきています。子どもにとってはもちろん、大人にとっても、ゲーム感覚で学ぶのが一番身につきそうですよね。

このような施策は、確かに実を結んでいるようです。Visaからの委託により、株式会社シタシオンジャパンが日米の大学生に対して実施した調査によると、小学校~高校のいずれかで金融教育を受けたことがあると回答した割合は、日本の大学生で39.7%、アメリカの大学生で72.2%でした。約2倍もの差があるのは驚きです。さらに、金融教育を受けたことがあると回答した学生に対し、「金融教育は役立っているか」を尋ねたところ、「役立っている」「少しは役立っている」と回答した割合は、日本34.6%に対し、アメリカ69.4%。アメリカでは約7割という数字です。若いうちから、資産運用について積極的に考えられそうですよね。なかには、小学生のころから株式を買っているケースもあるとか。

アメリカの資産運用事情を見てみると、民族性や国民性というよりも、知識や理解の有無が資産運用の傾向に表れていると言えそうです。

おわりに

資産運用の傾向は、個人の好みだけでなく、国の政策や教育も関係してくることがわかった点は興味深いですよね。今回まとめた内容を見てみると、単に、「日本もアメリカのように株式投資を増やせばいい」というわけではないと思います。重要なのは、金融や資産運用に関する知識と理解、そしてそれらを踏まえた積極的な資産運用ではないでしょうか。「リスクのある投資は怖い」というイメージだけでなく、ちょっと勉強して、資産運用を考えてみたいものです。

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