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201908.28

ギグ・エコノミーで人材活用の在り方が変わる。自由な働き方がビジネスにもたらす功罪

国内で働き方が見直されている中、自由度の高い働き方として注目を集める「ギグ・エコノミー」。

メディアでその話題を目にするだけでなく、日常生活の中でも街角でUber Eats配達パートナーを見かけるなど、ギグ・エコノミーを身近に感じられるようになってきていますよね。

今回は、ギグ・エコノミーの特徴と現状を踏まえながら、ビジネスにもたらす影響を考えてみましょう。

ギグ・エコノミーと従来型フリーランスの違いは?副業解禁との高い親和性

ギグ・エコノミー(gig economy)とは「雇用主のもとで働くのではなく、一時的に仕事を請け負ったり、単発・個別の仕事をしたりして、その都度報酬を得る働き方のこと」(Cambridge Dictionary)。

また、それによって成り立つ経済形態のことを指す場合もあります。なお、「gig」はもともと、ジャズやロックなどで、それほど親しくはないミュージシャンがその場限りの短いセッションをすることを表す英語です。

「ギグ・エコノミー」という用語は、2015年ごろからアメリカのメディアで頻繁に見られるようになりました。クラウド上でのデータ処理・活用技術が進展したことや、スマートフォンの普及などにより誰もがオンラインプラットフォームを気軽に利用できるようになり、さまざまな仕事と受注者をマッチングしやすくなったことなどが、ギグ・エコノミー拡大の背景にあるといわれています。

ギグ・エコノミーで働く人は「ギグ・ワーカー」と呼ばれ、個人事業主、いわゆるフリーランスとして働きます。従来のフリーランスとの違いについて、ライターを例に見てみましょう。

たとえば、筆者である私は、いわば従来型のフリーライターです。編集プロダクションや各メディアのライターとして登録しており、編集者からビジネスチャットやメールなどで声を掛けてもらったり、自ら企画・提案したりすることで、案件単位で執筆の仕事を得ています。案件となるプロジェクトは、たとえば、ある雑誌1号分に掲載する記事を複数本執筆するなど中長期にわたることもありますし、この「Morebiz」のように、特定のメディアで継続的に執筆する仕事も珍しくありません。

これに対して、ギグ・エコノミーのライターは、クラウドソーシングなどオンラインのプラットフォームを主に活用して、その時々で受けられる仕事を原則単発で受けます。そのため「この雑誌が発刊するまでは案件から離れられない」「このメディアで定期的に執筆しなければならない」ということはなく、より柔軟に仕事をするのが特徴です。

制約が少ない分、ギグ・エコノミーの仕事は特に副業としてマッチしそうですよね。実際に、ギグ・エコノミーが国内の労働力の34%を占めているとも推定されているアメリカでは、ギグ・ワーカーの58.5%が常用雇用(フルタイムまたはパートタイム)とギグ・エコノミーの仕事を両立していると報告されています。

働き方改革の一環として多くの企業で副業が解禁されるようになれば、日本でもよりギグ・ワーカーが増えるかもしれません。

【メリット】ギグ・ワーカーが企業の人手不足を解決に導く可能性も

ギグ・エコノミーでメリットを得られるのは、自由度の高い自律的な働き方ができるギグ・ワーカーだけではありません。仕事を発注する企業にとってのメリットのひとつは、人手不足が深刻化する中で人材をシェア・活用できること。

たとえば、ギグ・ワーカーの中には「柔軟な働き方ができるおかげで、子どもの急病や親の介護に対応できるようになっている」「インターネットを通じて海外の仕事を受注することで、より高い収入を得られるようになった」という人もいます。

つまり、企業はこうした子育てや介護などの理由でフルタイムの正社員としては働けない人材や、新興国など海外にいる人材を活用できるようになるのです。また、こうしたギグ・ワーカーへは必要に応じて発注できるため、社員として雇用する場合と比べて採用や研修にかかるコストや手間を削減できます。

ギグ・エコノミーは、少子高齢化によって人手不足が一層問題化すると予想される日本において、今後、重要な働き方・経済の在り方になっていく可能性がありそうですよね。

【デメリット】ビジネスの持続可能性のためにも取り組むべきギグ・ワーカーの処遇問題

一方で、こうしたギグ・ワーカーと企業のフレキシブルな関係性にはリスクもあります。

ギグ・エコノミーのデメリットとしてよく取り上げられる論点のひとつが、ギグ・ワーカーの処遇の問題です。ギグ・ワーカーには発注企業やプラットフォーム運営企業からの報酬や身分の保障がなく、最低限の処遇を守る法制度も整備しきれていない状況です。そのため、たとえば今後、ギグ・ワーカーの供給が増え、競争が激化すると報酬が不当に下がったり、ギグ・ワーカーが安定的に仕事を得られなくなったりする可能性があります。低い単価で収入を確保しようとすることがギグ・ワーカーの過労につながる恐れも否定できません。

こうしてギグ・ワーカーの不満や不安が蓄積すれば、企業のビジネスにも悪影響が及ぶことは想像に難くないでしょう。たとえば、アメリカでオンデマンドのホームクリーニング代行サービスを提供していたHomejoyでは、ギグ・ワーカーの処遇をめぐる問題が訴訟にまで発展。サービスに対する評判の悪化、ギグ・ワーカーの士気の低下に加え、資金繰りも困難になり、2015年にはサービスを終了するに至っています。

また、ギグ・ワーカーの不満に起因する高い離職率に頭を悩まされるプラットフォーム運営企業も見られるようになっているといいます。優秀な人材が処遇の改善を求めてギグ・エコノミーから離れていくと、プラットフォーム運営企業は質の高いギグ・ワーカーを確保し、サービスのクオリティやサービスそのものを維持することが困難になる、ということにもなりかねません。プラットフォーム運営企業だけでなく、ギグ・エコノミーに頼っている発注企業にも影響が及ぶでしょう。

ギグ・ワーカーの報酬・身分保障について、アメリカでは制度の整備に向けた議論が活発になっており、日本でもフリーランスの最低賃金に関する法案が検討されていたり、Uber Eatsドライバーらがユニオン結成の準備を進めていたりといった動きが見られるようになっています。

ギグ・ワーカーの処遇改善は、短期的にはプラットフォーム運営企業や発注企業のコスト増につながるでしょう。ですが、ビジネスの長期的な持続可能性を考えれば、企業にとっても真剣に向き合うべき課題なのではないでしょうか。

おわりに

働く人にも企業にもメリットをもたらすギグ・エコノミーは、これからの日本にますます求められる働き方・経済の在り方のひとつだといえるかもしれません。一方で、ギグ・エコノミー自体の存続にもかかわる重大な課題を内包しています。

将来的には、企業が安定的に優秀な人材をシェアでき、ギグ・ワーカーも快適に能力を発揮できるギグ・エコノミーが実現されるといいですよね。

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