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201904.01

上場時、経営理念は「ありません」と書いた。PR TIMESがミッションを言語化し、プレスリリースの役割を変えるまで

新商品の発売告知やイベントの開催報告など、企業のプレスリリースをインターネット上で見ることが当たり前になりました。記者、編集者がインターネット上でプレスリリースを探すだけでなく、生活者が目にすることも珍しくありません。

プレスリリース配信サービスの「PR TIMES」は、インターネットへアクセスするデバイスがPC中心だった時代から、インターネット上でのプレスリリース配信を牽引してきました。

今では利用企業数2万8千社、国内上場企業の35%が利用し、月間のプレスリリース配信数は1万2千本を突破。2016年3月には東証マザーズ上場、2018年8月には東証一部への市場変更を果たしました。

2019年2月には、「PRのピーは、パッションだ。」というコピーを掲げた広告を日本経済新聞に見開きで掲載。プレスリリースの役割を大きく変えつつあります。

今回は、PR TIMESを運営する株式会社PR TIMES代表取締役の山口拓己さんにインタビュー。事業を立ち上げてからどのように現在の地位を築いてきたのか、その裏で組織文化がどのように成り立ってきたのかを伺いました。

プレスリリースの内容の進化が事業の成長を後押し

―そもそも「PR TIMES」は、どのようにして立ち上がったのでしょうか。

―山口
2007年当時、プレスリリースは企業の広報がメディアに向けて送るものでした。
しかし、その中でメディアの目にとまりニュースになるのは大企業か人気企業だけ。他多くのプレスリリースは目にとまることがありませんでした。

「PR TIMES」のサービスが立ち上がったのは、なんとなくプレスリリース自体の役割が見直されようとしていたときでした。

―山口
私たちは、プレスリリースが企業とメディアのクローズドなコミュニケーションのツールではなく、その先にいる一般の生活者にも、企業の情報や、その背景にある行動、成果、情熱などが伝わるものになればいいと考えたんです。

サービスリリース当初は一般の生活者の閲覧があまり伸びなかったものの、インターネットへアクセスするデバイスがデスクトップPCからスマートフォンに移って、気になったことがすぐに検索できる時代になったことで、「PR TIMES」で配信されるプレスリリースが一般の生活者にも浸透してきたそう。

その中で、プレスリリースのコンテンツ自体が大きく進化してきたことも、「PR TIMES」の成長を後押ししました。

―山口
5年前に「PR TIMES」に投稿したリリースと、最近投稿したリリースのどちらに労力がかかっているかをお客様に問うてみたところ、今だという答えが返ってきました。

それは、メディアに向けてだけではなく、自社の商品やサービスに興味を持っているお客様にとっても価値のある内容にしたいと考えているからです。
これまで、メディアに報じられるだけでは一般の生活者の反響は分かりませんでしたが、「PR TIMES」を通じて反響が分かるようになったことで、もっとがんばって伝えたいという思いが生まれてきたと感じています。

上場当時、経営理念は言語化されていなかった

―プレスリリースへの考えが変化する一方で、広報の役割はどのように変わってきたのでしょうか。

―山口
以前の広報は、社会の中での自社の位置づけや、社会課題がどうあるかを把握することが重要でした。

それがインターネットによって簡単に把握できるようになり、広報の役割はそれに対して自社がどう応えるか、どう行動するかの立案にシフトしています。
行動を起こす際には一人ではなく、社員一人ひとりが動機づけられて協力し、大きな成果を目指していくことが、これからの広報にとって最も重要なテーマになると考えています。

その考えが、PR TIMESが掲げるミッション「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」にもつながっていると言います。

―山口
でも、事業立ち上げ当初からそう思っていたわけではないんです。

初めからあったのはプレスリリースを一般の生活者にも届けたいというコンセプトだけで、ミッションは事業を運営する中で徐々に見えてきました。

経営情報を開示するなどオープンであること、性別や年次にかかわらず機会を与えるなどフラットであることは、組織文化として大事にしていたんだとか。

ミッションを現在の言葉にまとめたのは、東証マザーズに上場して1年が経ったころ。

―山口
IPOの審査項目には経営理念を書く欄があるのですが、そこに「ありません」と書いたのは、私たちが初めてかもしれません(笑)。

それには理由があって、私たちが向かう方向はなんとなくあったけれど、それを言語化するまでには至っていなかった。そこで無理やり言語化しても、ただ額縁に飾っておくだけの標語になってしまうと思ったんです。

ミッションを掲げて起こったポジティブな変化

―では、どのようにして今の理念に決まっていったのでしょうか。

―山口
上場から1年の間に決めることを約束したため、まずはミッションとバリューを言語化するプロジェクトを立ち上げようと、メンバーを募りました。

言語化はしていなくてもなんとなくのイメージはみんなが同じものを持っていたため、早めに決まるだろうという思いがあったそうですが、決定までには丸1年がかかりました。

―山口
イメージは同じはずなのに、言葉にすると何かが違う。イメージを言葉にすることはこんなに難しいのかと痛感しました。

苦労して言語化したミッション。しかし言葉が定まったことで、うれしい変化もあったそうです。

―山口
変化が明らかだったのは、お客様や当社に入社を希望される方からミッションを口にしていただけるようになったこと。

社員も、本当に自然にミッションを口にするようになり、より共通の認識を持てるようになったと感じています。
採用においては、今まで明確な採用基準がありませんでしたが、ミッションを掲げてからはそれを軸にして採用ができるようになりました。

マーケティングにおいても、新規顧客開拓のための短期的なマーケティングから、既存顧客へのミッション浸透によって広報における顧客の成功を助けることで、回り回って新規顧客を獲得するという、長期的な目線でのマーケティングが行えるようになったんだそう。

現在はそのミッションをもとに、スタートアップや地方自治体、地方の中小企業への働きかけも強化しています。

―山口
これまで、スタートアップや地方自治体、地方の中小企業などは、わざわざインターネットで全国の生活者に情報を発信する意義がありませんでした。

しかし顕在化したニーズはなくても、潜在的なニーズはある。情報の発信でその潜在的なニーズを形にできれば、媒体はあとからできます。そのためにも、行動者をどう促していくかが、私たちに問われるところだと考えています。

グローバル展開で世界のPRを変え、一時代を築く

―最後に、今後の展望を教えてください。

―山口
短期的な目標は、2020年度に営業利益10億円、「PR TIMES」の利用企業者数5万社の達成です。
また、「PR TIMES」の重要なステークホルダーである、メディアによる活用率を100%にすることも目標に掲げています。

さらにその先にはグローバルに事業を展開し、世界のPRを刷新して、一時代を築いていきたいと考えています。

事業を運営していく中でミッションが生まれ、結果的に深い納得感が生まれているようでした。

目標はとても大きいですが、社員全員がしっかりと腹落ちしたミッションに向かい、成長し続けるPR TIMESであれば、きっと達成できるのだと感じました。

山口さん、お忙しい中ありがとうございました。

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