オフィスコストの削減、通勤負担の軽減など、さまざまなメリットのあるリモートワーク。
日本では話題にこそなりますが、まだあまり浸透していない印象がありますよね。
海外では、どの程度定着しているのでしょうか。今回は、世界のリモートワーク事情について見ていきましょう。
リモートワークが定着するアメリカ、逆に制限の動きも
アメリカでは、リモートワークが比較的定着しているようです。
現状では、労働力人口の50%(!)がリモートワークのできる仕事についており、約20~25%が実際にリモートワークをしているとのこと。4人~5人に1人の計算ですから、実感としても多そうですよね。
一方で、リモートワークが定着しているがゆえに、逆に制限の動きも見られています。最近では、米Yahoo!やIBMが、立て続けに「リモートワークを制限し、原則出勤するように」という方針転換を見せました。こうした動きは、ITベンチャーの聖地シリコンバレーでも見られるようになっているのだとか。いったい何が起こっているのでしょうか。
要因のひとつとして、チームでより高度な成果を上げる必要が出てきていることが挙げられています。高度な仕事になればなるほど、仕事を細かく切り分けられないため、会社の外で個々人が取り組むのに不向き、ということです。特にアメリカでは、個人の成果主義志向が強いため、リモートワークで会社から離れた状態だと、チームワークが疎かになる可能性があることが指摘されています。
一方で日本の労働者は、もともと会社への帰属意識が強く、チームでの仕事も得意である点が特徴です。そのなかで、労働者個人の力をより発揮できる選択肢として、リモートワークが推進されています。
「アメリカは日本の将来像」ということがよく言われますが、リモートワークに関しては事情が異なるようです。アメリカのリモートワークが今後どうなるのか、興味深く見守りたいですよね。
ヨーロッパ、行政主導のリモートワーク推進は成功?
ヨーロッパでは、リモートワークをeWorkと呼び、EUレベルでリモートワークを推進してきた経緯があります。
その背景には、2000年前後の高い失業率がありました。当時、15歳~24歳の若年層の失業率は、18.5%に上ったと言います。そこで、ICTを活用し、経済成長と雇用を実現することを謳った「リスボン戦略」に基づき、eWorkを行政レベルで推進してきました。
たとえばイギリスでは、6歳以下の子ども、あるいは18歳以下の障がい児を持つ親には、フレキシブルな働き方を申請する権利があります。同時に雇用主は、この申請を現実的に検討する義務を持ちます。子どもの世話が必要な親にとっては、ありがたい制度ですよね。
フランスでは、パリの人口一極集中を避けることも含め、国主導で地方にテレワークセンターを設置するプロジェクトが実施されました。テレワークセンターとは、リモートワークをする人を総合的に支援する施設のことです。フランスでは2007年の段階で、18ものテレワークセンターができています。身近に相談できる同僚や上司がいないリモートワーカーにとっては、地元にテレワークセンターがあると安心できそうです。
こうした施策の結果、EUではリモートワークが定着したと言えます。調査によると、現在、EUにおける企業の49%がリモートワークできる制度を持っており、実際にそれら企業に勤めている人の21%がリモートワークの形態で働いているとのことです。半分近くの企業がリモートワークの制度を持っているとなると、働き方の選択肢はぐんと広がりそうですよね。
ただ、行政側がこのようにリモートワークを推進する一方で、経営者側の関心は低いようです。原因としては、労働法制の厳格さが挙げられます。たとえばフランスでは、週35時間の厳しい時間管理が求められています。したがって、労働時間の管理がしづらいリモートワークは、経営者側にとってあまりメリットを感じられないようです。
行政は、リモートワークを単に推進するだけでなく、リモートワークを企業が導入するにあたっての障壁を取り除く必要もあるでしょう。日本においても留意しておきたい点だと考えられます。
アジア、リモートワーク発展途上
日本を含むアジアでは、リモートワークはまだまだ発展途上です。日本におけるリモートワーカーは、労働力人口の8.8%程度、日本におけるリモートワーク導入率は11.5%程度だと言います。日本では通勤ラッシュもひどいですから、働く人にとっては、リモートワークはもっと導入してもらいたいところですよね。
お隣の国・韓国では、リモートワークやテレワークのことを「スマートワーク」と呼び、行政主導で推進の動きが見られています。2010年に、大統領のリーダーシップでスマートワークの推進が発表され、2015年までに官民の30%でリモートワークを実施する目標が設定されました。スマートワークセンターも、2015年までに官民合わせて500社程度を整備することが掲げられています。EUの施策と似ていますね。
ただし現状では、導入率はわずか1.0%未満という調査結果が出ています。これはちょっと残念です。韓国の雇用文化も日本に似ており、労働者の会社への帰属意識も比較的強いですから、リモートワークのデメリットも目についてしまうのかもしれません。
とはいえ、今後、リモートワークが推進される動きは、アジアでも顕著であることは確かです。今回の記事では触れませんでしたが、国土の広い中国などでは、リモートワークが進むのではないでしょうか。動向に注目しておきたいところですよね。
おわりに
いかがでしたか?
さまざまな国の例を見てみると、リモートワークが推進されるためには、経営者側の改革の意識と、行政の制度改革の両方がバランスよく必要であることがわかります。日本の経営者も行政も、世界の国々の例をお手本にしながら、日本ならではのリモートワークの在り方を模索していければいいですよね。
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